蘭学事始 - 16

一、さて、つねづね平賀源内などと出会ひし時に語り合ひしは、追々見聞するところ、和蘭実測窮理のことどもは驚き入りしことばかりなり、もしただちにかの図書を和解し見るならば、格別の利益を得ることは必せり。されどもこれまでそこに志を発する人のなきは口惜しきことなり、なにとぞこの道を開くの道はあるまじきや、とても江戸などにては及ばぬことなり、長崎の通詞に託して読み分けさせたきことなり、一書にでもその業成らば大なる国益とも成るべしと、たゞその及びがたきを嘆息せしは、毎度のことなりき。しかれども空しくこれを慨嘆するのみにてありぬ。